【まちなかストーリー】懐石料理 いっ木 一木敏哉さん 第1回「菊乃井さんで修行して浜松で起業したきっかけ」

まちなかで活躍する人にスポットを当てて、そのヒトの街に対する想いや物語を紹介する「マチナカストーリー」。
前回のWINE & JAPANESE GRILL FUJITAの藤田 隼介さんから紹介いただき、3人目は、懐石料理「いっ木」 の 一木さん。全3回に分けて、毎週お届けしていきます。
今週は第1回、まずは「菊乃井さんで修行して浜松で起業したきっかけ」のお話を中心に振り返ってお話していただきました。

人物紹介

一木 敏哉さん
森町出身。辻学園調理技術専門学校卒業後、京都「菊乃井」での修業を経て地元静岡にて「いっ木」開店。静岡ふぐ処理師、利酒師。日本料理アカデミー会員。学生時代は剣道部とバスケ部。
お店のウェブサイト: 懐石料理「いっ木」(浜松市中区田町329-8)

伊藤 一木さんはもともとはご出身は森町でしたっけ?

一木 森町です。高校卒業してから大阪の調理師学校に行ってそのあと京都の料亭で修行して戻ってきました。

伊藤 とても有名な料亭さんなんですよね

一木 料亭は菊乃井さんにお世話になりました

参考:菊乃井Webサイト
http://kikunoi.jp/
ーー京都の老舗料亭。大正元年(1912年)創業。京料理・懐石料理の料亭「菊乃井」

伊藤 それで、その後Uターンで戻ってこようと思ったきっかけは何かあったんですか?

一木 やっぱり地元で懐石料理をやりたいということと、一応場所の候補はいくつかあったんですね、浜松の他に静岡とかも考えていたんですが、やはり食材がよかったというのも大きな理由の一つですね

伊藤 浜松の海のものと山のものと、どちらもいいものがあってと

一木 いいものが仕入れやすいですね

伊藤 お幾つくらいに戻ってみえたんでしたっけ?

一木 25の時に戻って、お店は28になってからですね。お店を開く前はフリーターで。修行期間って思っている以上に給料がないんですよ。で、お店を開きたくても自己資金がなかったものですからその資金を集めたりした期間が2年ちょっとくらいですね。

伊藤 おー、では飲食以外のお仕事も

一木 はい、いろいろと。

伊藤 そうなんですね、修行の期間はなかなか貯められないんですね。

一木 貯まらないですねー、たぶん思っている以上に少ないですからね。お給料出たら勉強のために食べ歩きとか行くじゃないですか。そうすると生活するのにやっとな額しか残らなくて、携帯代払って、日用品や消耗品買えばほとんどなくなっちゃいます。

伊藤 なるほど…そういう感じなんですね。修行も5年くらいやられて、こちらに戻ってこられて、資金集めをされていたと。

一木 はい、そうですね。森町の実家の方にいて、袋井や磐田と近場でやっていました。

伊藤 浜松のまちなかにお店を出されたのは、何かきっかけや思いはあったんですか?

一木 浜松の駅というのは新幹線も止まりますよね。浜松以外のお客様もいらしていただけるっていうのもあって、浜松にしました。

伊藤 開業されてから10年くらいになりますよね。今と10年前の昔と比べて何か変わりましたか?

一木 変わりましたね。最初お店開く時に懐石料理一本でっていうので、非常に周りからボロクソに言われまして…(笑)あんまりないですからね。それで、その後ちょっとしてから完全予約制にしたんですが、それでもまたボロクソに言われまして。懐石しかない。予約しかダメ。そんなんナメとんのかくらいの勢いで(笑)

あと、食材の鱧(はも)。当時は魚屋さんにもお客さんにもあまりなじみがなかったんです。それが今は、鱧が色んな所で知られるようになって、最初の頃から比べて「鱧美味しい」と周りが言ってくれるようになったり、何年か前にまだ鱧が全然の時にテレビの取材が入ったんですよ。その時に鱧が良いですよと言っていただいて、それから結構変わったかなと思います。鱧が食べたいなとなっても京都じゃなくても遠州であるのはあるんやってのが分かってもらえたり。

参考:鱧(はも)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%A2
ーー沿岸部に生息する大型肉食魚で、京料理に欠かせない食材として扱われる。

もう一つは、さっき言った予約制っていう形ですよね。それまでみんなは懐石でもふらっと入ってくる区画のお店で、やっぱりないわけですよ。予約して行かないかんところは。それが、予約しますよという形をとるようにしてから、お客さんもそれに慣れてこられたというと言い方がおかしいですけど、他のお店さんでも、お昼のランチは飛び込みOKだけど夜は予約制になったよってところは最近増えてきましたよね。開店当初の頃はそんなの無かったですからね。

伊藤 一木さんが完全予約制という新しい文化をエリアに持ち込んだんですね。

一木 少なからず完全予約制のきっかけのひとつになったのではないかと思います。予約制のお店は他にも幾つかあると思いますけど、この予約制っていうのはここ10年で変わってきたところかなと思います。

予約制によって自分の懐石料理で気持ちよく”おもてなし”できる空間に

伊藤 時の流れでお客さんの変化はありましたか?

一木 食べることが好きって人が、やっぱりずっと来ています。お客さんも予約できるってことでお店のこともある程度調べていらっしゃいますし、だいたいこういう懐石料理でこういうイメージで出てくると分かって来ていて、うちもそのイメージ通りのものをお出ししているので、お客さんとのズレが少ないですね。

和食だって言ってみても「なんで刺盛りがないねん」とか「なんで焼き鳥ないねん」とか。あとはお客さん入ってこられても「椀物がないのはどうしてなん」とか、そういうズレがないので、お客さんとの変なトラブルってのは比較的少ないですね。

今まで懐石と言っても、地方の都市って天ぷらがあって茶碗蒸しがあって…というような感じのところから、うちは一切そういうのは出しませんと言ってちゃんとした懐石のスタイルで出していますね。

茶碗蒸しって実はお吸い物の代わりなんですよ。うちは煮物椀として出すんですけど、「煮物椀」が出るのに「茶碗蒸し」が出るというのは同じ料理が2回出ることになるんですよ。と言うのはちょっと具合が良くなくて、お腹にたまる汁物が2つ出るとコースが最後まで食べれなかったりすることもあるので。

油物もそうなんですよ、天ぷら食べると結構ボリュームがあるので、油でお腹いっぱいになって他の料理が食べられなくなってしまうので油物は基本的にはお出ししないようにしています。

伊藤 確固たるスタイルがあったからこそですね。

一木 それに対してお客様には、今までにないねっていう形で言ってもらえて。なので、オープン当初の頃は、普通にオーソドックスな懐石料理を出してても、これは創作料理か?と言われるくらいで。それくらい新鮮なものだったのかもしれないですね。

料理人を目指したのはバブル後時代の影響とそもそもサラリーマンには向かないから

伊藤 昔から一木さんは料理人を目指されていたんですか?

一木 いえ、ぜんぜん… 当時は、やろうと思っていたわけでもないですし、料理が好きだったわけでもないんです。

一同 ええ、そうなんですか(笑)

一木 その当時、伊藤さんと年齢同じくらいだと思うんですけど、バブルが弾けて失われた20年の始まりで就職が大変だった時代だったじゃないですか。大学行ってもやっていけないとか、手に職をという時代だったと思うんです、2000年前後。そのなかで、特にサラリーマンは向いてなかったんでサラリーマンは出来ないなと。最初は、地元の森町で焼き鳥屋さんでもやって、近所の友だちでも来ればいいかなと思っていたくらいでした。

僕、学生時代は毎日遅刻するような子だったので…。朝起きれない子がサラリーマンなんて出来るわけがないじゃないですか…(笑)

伊藤 そうなんですか、そんなようには見えない(笑)それこそ、修行している時とか、料理人の世界は厳しいじゃないですか?

一木 その時は、もう遅刻したら本当にやばいことになっていたので大丈夫でした。

伊藤 ちなみに、スポーツとかやられていましたか?

一木 やってました、高校の時にはバスケットをやっていて、中学の時は剣道やってました。

伊藤 剣道にあいそうですね

ジャンルとして和食を選んだきっかけは「日本語しか出来ないから」?

伊藤 和食っていうのは、調理師学校の専攻ですか?

一木 そうですね、専攻で分かれていて。和食・洋食・中華・製菓とありまして。それで、学生時代僕は英語が全然ダメで。

一同 (笑)

一木 英語もできない、フランス語も中国語もできひんし、日本語しかできひんから「和食」って決めました。

鳥居 すごい消去法ですね(笑)でも、この選択がばっちりハマったんですね。

一木 本当にそうですね、ハマっちゃいました。こっちで和食食べたと言っても鯵(あじ)の塩焼きがあったり、天ぷらがあったり、かつおの刺し身があると。

向こうに行ったら、焼き物でも塩焼きだけじゃなくて、幽庵焼き(ゆうあんやき)があれば、味噌ゆうあんがあれば、南蛮焼きもあるし、若狭焼き(わかさやき)もあるしっていういろんなバリエーションがあって。

参考:幽庵焼き(ゆうあんやき)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%BD%E5%BA%B5%E7%84%BC%E3%81%8D
ーー和食の焼き物のひとつで、幽庵地(醤油・酒・味醂の調味液にユズやカボスの輪切りを入れたもの)を用いた魚の付け焼き

参考:若狭焼き(わかさやき)
https://kotobank.jp/word/%E8%8B%A5%E7%8B%AD%E7%84%BC%E3%81%8D-1496532
ーー甘鯛などうろこの細かい魚をうろこがついたまま焼くこと。また、その料理。酒または酒にしょうゆを合わせたたれ(若狭地)を皮にかけながら、うろこが逆立たないようにこんがりと丁寧に焼き上げ、うろこごと食べる。

その中で、今まで見てきたものが本当に一部だけのこんなもんじゃないですか、いろんな世界を見て、しかもそれが美味しい。そんな感じでハマっていきましたね。

伊藤 それまでは料理をしたことはなかったんですか?

一木 ぜんぜんもうしてなかったですね。本当に包丁もろくに使ってなかったですし、それこそカップラーメンにお湯次ぐくらいしか…お米の研ぎ方とかも後々知りましたからね。

伊藤 料理はセンスもあるじゃないですか、調味料をちょっと加えて味を整えたりするのはセンスなんですかね?

一木 僕は、センスは数を一定数やらないことにはセンスが良い悪いの判断にはならないと思うんです。そこまで行ってから、人によって味付けの濃い薄いが出るんですよ、これがセンスになってくると思うんですけど、そこのある一定までのレベルは全員ちゃんとやれば出来るようになりますね。そこから先はセンスや感性の世界です。

いやぁー、そんなに料理が難しいもんやったら、人類は滅んでますよ、美味しくないものばっかり食べて(笑)

一同 (笑)

—–

今週はここまで!
次回は「開業時に苦労したお話」を聞いていきましょう、公開予定日は9/16です。お楽しみに!